Epic GamesがFortniteの件でAppleを起訴!170ページにも及ぶ訴えを要約したりしてみた

AppleやGoogleのプラットフォーム手数料を嫌って手数料迂回システムを実装したFortnite、この行いはApp StoreとPlay Storeの利用規約に違反しており、公開数時間後に両方のストアからリジェクトされる事となりました。
このリジェクトを受けて運営元のEpic GamesはAppleを独占禁止法違反などで訴えを起こし、その170ページにも及ぶ申立書の内容が公開されたので、内容を要約してみました。
Epic Gamesの申立て内容
Fortniteにプラットフォーム手数料を迂回して直接課金できるシステムを実装したEpic Gamesは、この行いを規約違反としてストアからゲームをリジェクトしたAppleを独占禁止法違反で訴え、Epic Gamesの考えなどがわかる申立書の内容が公開されました。
申立書に記述された内容はざっくり下記の通りとなります。
- Appleは市場を支配し競争を阻害しイノベーションを抑制している
- Appleは歴史上最も危険な技術独占企業である
- 10億を超えるiOS系ユーザーにアクセスするにはAppleに従うしかない
- そのためには売上の30%という法外な手数料を払わなくてはならない
- 他のデバイスでは様々なDLルートがあるのにiOS系はApp Storeのみ
- これらのせいで一般ユーザーも直接被害を被っている
- この裁判でAppleの数十億ドル市場独占を終わらせる
- Epic Gamesは損害賠償を求めてはいない
- Appleはサードパーティインストールを解放すべき
- Apple以外の決済システムを解放すべき
- Appleはエコシステムでユーザーを縛り他機種へ移るのを不当に防いでいる
- Epic GamesとFortniteユーザーはAppleのせいで直接的な被害を被っている
- FortniteコンテンツはApple手数料のせいで値上げを強いられてきた
- Epic GamesはAppleに不当な独占をやめるよう呼び掛けてきた
- しかしAppleはエコシステムによる拘束を手放さなかった
- これらを打開するために直接払いシステムを実装した
- その効果はユーザーに20%還元できるほどの効果を発揮できる
- そしてAppleは不当にFortniteを削除し市場の独占に努めた
- なのでEpic GamesはAppleの不当な行いの救済を訴えた
申立書には上記内容が170ページにも渡って詳細に記述されているのですが、当然AppleがApp Storeが開設当時から30%の手数料を取り決め、そもそも手数料を迂回する決済システムの禁止を利用規約で制定している事には触れず、完全に不当にFortniteが削除されたと訴えています。
では、これらの申し立てた内容をそれぞれ見ていきましょう。
申立て内容の解説
まず1・2については結論提起なので置いておくとして、3〜5はiOS系のエコシステムの特徴であり、事実と言えるでしょう。
Appleは比較的厳しいApp Storeレビューを行なっており、怪しいアプリやシステムやユーザーに危険の及ぶアプリを審査NGで公開しないようにしており、専門知識などないユーザーでも安全に利用できるようにしてきました。
有料アプリやアプリ内課金については基本的に30%の手数料(サブスクリプションの場合は若干ルールが違います)を取っており、これはApp Storeを開設した2008年7月10日から変動しておらず、また広告収入や物販などの場合は手数料を取っていません。
次に6の「これらのせいで一般ユーザーも直接被害を被っている」ですが、説明ではざっくり「(iPhoneは)人々にとって必要不可欠なデバイスとなっており、Appleによる不当な制限や課税(手数料)のせいで消費者は直接的な被害にあう」と書かれているものの、具体的な内容にはなにも書かれていません。
7〜10についてはEpic Gamesがこの裁判で何を望むかを説明しているもので、Epic Gamesは賠償請求しない代わりにiOS系デバイスに外部アプリのインストールと外部決済システムの解放を求めています。
極端な例え話ですが、これを解放するとiPhoneなどの強みであるセキュリティ強度を手放す事になりシェアは低下、App Storeからほぼ収益を得られなくなり、エコシステムの莫大な開発費と維持費に耐えられなくなるAppleは、iOS系事業を遠からず閉鎖する事になるでしょう。
11の「Appleはエコシステムでユーザーを縛り他機種へ移るのを不当に防いでいる」については、iOSで購入した有料アプリや有料コンテンツを手放すのが惜しくて、Androidに簡単に機種変できない、といった発言ですね。
上記は正直どんなものでも当てはまる当たり前な事と言え、例えばプレステで買ったソフトがXboxでプレイできないのは不当だ!と言っているのと同義で、正直わがままでしかありません。
12は6と一緒ですが、「Epic GamesとFortniteユーザーはAppleのせいで直接的な被害を被っている」とあるものの、具体的な被害例は記述されておらず詳細は不明ですが、もしかしたら今回のApp Storeリジェクトの事を指しているかも知れません。
13は「FortniteコンテンツはApple手数料のせいで値上げを強いられてきた」とありますが、ぶっちゃけデジタルコンテンツはそれなりに開発費などがかかるものの、物販と異なり資源を消費するような在庫を保有しているワケではないので、値上げというよりは利益を上げようとした価格設定であり、他の競合他社のほんとんどが問題なく運営できている事からほぼ言いがかりと言えます。
14・15は「Epic Gamesが不当な独占をやめるよう呼び掛けAppleが応じなかった」という話ですが、そもそもAppleはデベロッパー契約時に同意を求める利用規約(App Store Reviewガイドラインなど)で開示しており、契約後に契約内容に文句を言っている状態ですね。
Epic Gamesは上記の理由から16で手数料迂回システムを導入、17で30%の手数料を20%ユーザーに還元(割引価格販売)し10%を自社利益として計上し、まるで割引しているように見せながら収益率を上げようとしたワケです。
上記Epic Gamesの対応からApple(とGoogle)は18のストアリジェクトを行い、Epic Gamesは19のストアリジェクトの解除・サードパーティインストールの解放・外部決済システムの解放を訴えるに至ったそうです。
Appleは歴史上最も危険な技術独占企業?
上記で説明した内容をもって、Epic GamesはAppleを1「Appleは市場を支配し競争を阻害しイノベーションを抑制している」、2「Appleは歴史上最も危険な技術独占企業である」としていますが、これは本当なのでしょうか?
アプリに絞ってみてみると、AppleはiOS系デバイスでのアプリリリースを審査で絞っているため、まるで競争を阻害しているように見えるかも知れませんが、何かしらの問題を抱えていないアプリは普通にリリースされるため、市場を支配しているものの競争を阻害しているとは言い難いでしょう。
またイノベーションについても、特段新しいアイディアのアプリを不当にリリースさせなかったといったニュースはありませんが、以前より問題になっている後からApple公式で出して元ネタをストアリジェクト、というのは何度か確認されていますね。
そういった意味合いでAppleが競争を阻害しイノベーションを抑制しているとは言い難く、「Appleは歴史上最も危険な技術独占企業である」というのは根拠のない悪口に近いでしょう。
またAppleが最近リリースした革新的なデバイスとして、特にiPhone・Apple Watch・AirPodsがありますが、iPhoneとApple Watchについてはそれ以前に多くの企業が同タイプのデバイスをリリースしていますし、AirPodsリリース後に多くの企業が左右完全独立型イヤホンをリリースしています。
この事からソフトウェア面でもハードウェア面でも、Appleが競争を阻害しイノベーションを抑制しているとは言えないと結論づける事ができるでしょう。
他のプラットフォーム手数料は?
筆者がわかる範囲で調べたところ、他のゲームプラットフォーム等の売り上げに対する手数料が軒並み30%である事もわかりました。
代表的なのではPlayStation、Xbox、Nintendo Switch、Steamが30%との記述が確認でき、ゲーム業界のプラットフォーム手数料としては平均値(WiiUは35%との記述も)である事が確認できます。
この事から業界的にも30%の手数料は平均的で普遍的なもので、AppleやGoogleが不当に高額な手数料を請求しているとは言えず、しかもFortniteがPlayStation、Xbox、Nintendo Switchでも展開している事から、この手数料が平均的で普遍的なものである事は知っているハズです。
Windows版やMac版について自社ストア(Epic Games Store)から直接ダウンロードする仕組みを取り、Steamを避けている事からも単純に30%の手数料を嫌っている事がわかり、Appleの正当性を自ら証明する結果となっています。
Epic Gamesの早すぎる対応
Epic Gamesによる手数料回避システムの実装、AppleやGoogleによるストアリジェクトに注目が行きがちですが、最も注目すべきはEpic Gamesによる尋常ではない対応の早さでしょう。
Epic GamesはFortniteのストアリジェクトから1日程度でAppleを批判する動画をリリース、その翌日には170ページにもおよぶ申立書を裁判所に提出しており、どう考えてもストアリジェクトに対応して動いたにしては早すぎます。
Epic GamesはApp Storeの独占に異議を唱えました。報復として、Appleは10億のデバイスでFortniteをブロックしています。https://t.co/VwLAHlzLap へアクセスし、2020年を「1984」にしないための闘いに参加してください。 pic.twitter.com/LSKyXiXQVA
— フォートナイト (@FortniteJP) August 13, 2020
おそらくですが、Epic Gamesは手数料回避システムがAppleとGoogleの利用規約に反しているのを知った上で開発、リリース前にAppleやGoogleがストアリジェクトをすぐに実行するのを見越した上で、批判動画や申立書の基礎をあらかじめ用意していた可能性が非常に高いです。
これが事実の場合、Epic Gamesによる一連のこの動きは炎上商法にも似たマーケティングパフォーマンスであり、Fortniteの知名度をニュースで一気に引き上げて他のプラットフォーム、特に手数料がかからずユーザーに20%の割引を実施できる自社ストアに移行させる事が、今回の一連の騒ぎの真の目的である可能性もあるでしょう。
まとめ
実はFortnite、リリース時の2020年7月にはGoogleのPlay Storeに公開していなかったのですが、Androidユーザーが全然増えなかったせいか今年4月に公開したばかりで、Googleには4ヶ月くらいしか掲載されていなかった事になります。
また以前はPUBGにパクリゲーとして訴えられ、本日未明にはフロリダ州にある有名観光スポット「コーラル・キャッスル」をゲーム内に無断使用したとして運営に起訴されており、どちらが不誠実でどちらが誠実であるのかは多くの人にとって明らかに写っているでしょう。